はじめに
絵画の事。それより大雑把に云えば、芸術の事。
あなたはどんな時に涙を流すだろうか、どんな時に全速力で走るだろうか。
それら全てを説明もされず、解読もせず、ただひとしきりに知りたいままで終わった人との交流を僕はたまに浮かべる。
興味のない人や事柄を見つめる事は容易くて、鏡のように僕も雑多の中の、小石一粒程の個性。
けれど、どんなに有り体でも、日々は手作りだ。
後悔も正しさも、紛いなりに作ってきた。
人それぞれのいろいろが、僕にもある。
逞しい絵が好きだから、逞しくならなきゃ。
絵画が好きなの、言葉がないから。私もあんまり会話で自分を知って欲しいと思わないし。
君が言っていた言葉だった。
僕は声や言葉で人を覚える。上手い下手、大小差異は関係なく。心に残る声色や言葉が多い人ほど僕の中で大事な人だ。
その子はよく笑った。快活てほど高くは上げないが、空間にストンと落ちるような笑い方だった。
けれども、名前を忘れるのが良くない癖。
アパートの拙い壁いっぱいに、君の言葉が貼り付いていたら、僕はどれだけ覚えていられるだろう。過ごした場所で、過ごした場所全部が君を覚えていられたら助かるのに。
テーブルには温度、シーツには匂い、浮かべたらキリがないほど気味の悪い思考だから割愛する。
だから絵画を描いてみるべき、なのか。
僕の芸術は、君かもしれない。
もういない君が芸術になる。
鏡のように僕もあなたの中の小石一粒程の時間だ。逞しいよ、僕の中のあなたは、寂しさと比例するように。強く。
どれだけ有り体でも、時間は手作りだ。
誰にも知られないまま。
人それぞれの、いろいろは、強く。