folkbowl’s blog

秒針と群青と身体

あの雲よりも緩やかに


f:id:folkbowl:20170613120923j:plain



その時の僕は、さながら迷子のように沈黙をどう転がしてみようかと考えていた。

ついぞ答えを待たずして、君は布団を纏い明日に出かけるご様子だった。致し方なく、術の無かった僕はビートルズのIn My Lifeを頭に浮かべ、眠りに就こうとした。少し枕を多く使われていたのを咎めたかったが、それもまた致し方なかった。


どうして他の人とも寝るの


誰とも寝ている気がしないんだよ


文章に起こせば、甚大な欠陥があるような自分の返しに驚く。それがまた素直に最初に出た言葉だから取り返しもつかない。命在るだけ有難いと毎晩夜空に祈りを捧げ、半径10m以内の全てにこうべを垂れ、自身の忌まわしさに懺悔するべき業である。僕は道徳をどこで握り締め忘れたか。


翌日は、笑みひとつ溢さずに君が先に部屋を後にした。しがない休日も、始まり次第である。

君が買って来たミルで珈琲豆を挽いた。

時間がモールス信号の様に途切れ、記憶に残らない瞬間が多々あったので、何度か途中で豆を取り出そうとした。ああ、まだあったかと挽き直し、ああ、終わったか、ああ、まだあったのか、の繰り返しで、壊れたカセットさながらだった。


何をしていたか、と誰に問われても困り果てるその日の夜に、君からの連絡があった。

箱の中身は何でしょう、であるならば僕はずいぶん怯えた事だろう。

勘が良いというより、僕の性分を熟知した君は、思い直したかのように電話をかけてきた。

なかなか読むに至らないであろうという、その予想はまさしく予想通りである。


誰にも相手されなくなってみたらいいと思ったけど、あなたは悪運強そうで悔しいから、また時間あるときに連絡する

でもまた悔しい

滝にでも打たれろ


風邪を引くので嫌だ

なるべく伝わらないように笑って、僕は答えた。


あっそ

電話が切れた。そうであったらいいと、笑った君を浮かべた。


だらしのない二人は、ちゃんとだらしのないまま、短く繋がっていた。